ちょっと短編小説♡第一夜｜うた／人妻密会

ちょっと短編小説♡第一夜

2025/05/10 (土) 12:00:07

第一夜：見知らぬ部屋、見慣れぬ指先

夜9時、都心のホテル。
化粧室の鏡に映る自分を、

絵里子はしばらく見つめていた。

結婚して7年……
こんな場所に来るのは初めて

だった。
鏡越しに、うっすらと頬が赤らんでいるのがわかる。

「…お待たせしました」

ドアを開けると、

彼はソファに座っていた。

スーツのネクタイを緩め、

グラスにウイスキーを傾けている。
年下の彼、直人は絵里子を見ると、静かに微笑んだ。

「来てくれて、嬉しいです」

その声に、彼女の胸の奥が小さく震える。

夫には「友人との食事」と言って

出てきた夜。

だが、今、自分がここにいる

理由は……

直人がグラスを置き、立ち上がる。
彼の指が絵里子の肩にそっと触れた。

「緊張してますか？」

頷く代わりに、彼女は目を伏せた。
肩越しに伝わる体温が、不思議と

心地よい。
この触れ合いが、現実なのか夢なのか、まだわからない。

「……夫には、悪いと思ってる。
   でも……」
震える声で絵里子がつぶやく。

「悪いと思ってるなら、来なかったはずですよ」
直人の手が、ゆっくりと絵里子の

髪を撫でる。
優しさと、獣のような静かな欲望が入り混じった指先。

「……忘れさせてください。全部」

その一言が、最後の枷を外した。

彼の唇が、頬に、耳元に

そして首筋へ。

ソファの縁に背を預けながら

絵里子は目を閉じた。

躊躇いは、もうどこにもなかった。
 

つづく→