ちょっと短編小説♡第三夜｜うた／人妻密会

ちょっと短編小説♡第三夜

2025/05/11 (日) 09:30:04

 ― 第三夜：彼にも、妻がいた ―

数日後、絵里子は直人と再びホテルで会う約束をしていた。
しかしその前日、思いがけないことが起こった。

自宅のインターホンが鳴ったのは

午後３時過ぎ。

ドアを開けると、そこには知らない
女性が立っていた。
清楚で整った顔立ち。

ロングコートの裾から見える

足元には、上品なヒール。

「初めまして。……直人の妻です」

その一言で、絵里子の体から

血の気が引いた。

ドア越しの沈黙が重く張り詰める。

「夫のスマホ、見てしまって。

あなたの名前も、場所も……

本当に、愛してるんですか？」

絵里子は言葉を失った。
自分が“誰かの妻”であることを盾にしていたつもりが……彼もまた、

“誰かの夫”だった。

「私は、あなたを責めに

来たんじゃない。ただ、

どうしても直接聞きたくて…」

その目には、涙はなかった。

ただ、まっすぐな怒りと哀しみが

混ざっていた。

「 彼を返して」とは言わない。

「別れて」とも言わない。

それが、絵里子を何よりも

苦しめた。

つづく