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私の秘密の先生|第二話 初めての秘密の授業
2026/09/01 (火) 12:02:47

* * *
《私の秘密の先生》
第2話 ― 初めての秘密の授業
「じゃあ、次の授業」
彼は自分の胸を軽く指さした。
「ここは、意外と大事なんだよ」
「そうなんですか?」
「うん。最初から強くしないこと」
彼は私の手を取って、自分の胸にそっと置いた。
「相手の表情と呼吸を、ちゃんと見て」
次は、胸を愛撫する方法だった。
ただ強く触れればいいわけではない。
相手の表情や呼吸を見ながら、指先や舌先の動き、力の入れ方を少しずつ変えていくのだと、彼は教えてくれた。
「愛撫にも段階があるんだよ」
「段階、ですか?」
「最初はゆっくり。相手が反応してきたら、少しずつリズムを変える」
最初は、彼の体をまともに見ることさえできなかった。
けれど、私の触れ方によって彼の呼吸が変わるのを感じるうちに、いつの間にか、その反応を確かめるようになっていた。
「そう。その感じ」
耳元に届いた声に、顔がさらに熱くなった。
それでも、いつしか恥ずかしさより、ちゃんとやってみたいという気持ちのほうが大きくなっていた。
「上手だよ」
「本当ですか?」
「うん。思ったより、センスがあるみたい」
彼の呼吸が、少しずつ深くなる。
「男の人って、速くて強い刺激ばかり好きだと思う?」
「違うんですか?」
「意外と、優しさに弱いんだよ」
彼は私を見ながら続けた。
「ゆっくり近づいてくる刺激のほうが、かえって強く感じることもある」
目が合った瞬間、私は思わず視線をそらした。
「それから、うまくやろうとしすぎないこと」
「それが一番難しい気がします」
「だから練習が必要なんだよ」
彼が笑った。
「実際にやってみる機会が増えれば、少しずつ上手になるから」
「そんな機会、増えるでしょうか」
「どうだろうね」
彼は答える代わりに、意味ありげに微笑んだ。
彼が教えていたのは、単なるやり方だけではなかった。
相手の呼吸を読むこと。
表情が変わる瞬間に気づくこと。
焦らず、二人の間の空気をつないでいくこと。
「こういうことも、全部覚えるんですか?」
私が尋ねると、彼は笑った。
「覚えたら、もっと上手になるでしょう?」
「本当に先生みたい」
「今ごろ気づいた?」
彼は、いたずらっぽく言った。
「じゃあ、今日最後の授業」
彼がもう一度、私の手を取った。
今度は、その手をゆっくり下へ導いた。
その意味がわかって、私は息をのんだ。
「今日は一番基本的なことから。手で最後までしてみようか」
指先に力が入るのがわかった。
「ちゃんとできるか、自信がありません」
「最初から上手にしようとしなくていいよ」
彼は私の手を優しく包んだ。
「力を抜いて、相手が心地いいと感じるリズムを探すんだよ」
彼の声は落ち着いていた。
でも、その言葉が向かう先は、少しも落ち着いていなかった。
「手で輪を作るような感じで」
彼はそう言って、私の指の形をそっと直した。
何を意味しているのか気づいた瞬間、また顔が熱くなった。
ほんの少し前まで、私はホテルの廊下から逃げ出したいと思っていた。
体験入店をしてみて、お客様が変な人だったら。
無理なことを求められたら。
どうしてもできないと思ったら。
明日から二度と、池袋の西口には近づかないつもりだった。
それなのに。
一つずつ教えてもらっているうちに、私は思いがけないことを考え始めていた。
あれ?
私、この仕事……。
できるかもしれない。
私は、彼の言葉を一つも聞き逃さないように集中した。
「表情を見て」
私は彼の顔を見た。
目つきと呼吸が、少しずつ変わっていく。
ようやく、彼が言っていた「相手を見る」という意味がわかった気がした。
私が動きを変えるたび、彼の反応も変わった。
ときには、ほんの少し手を止めるだけで、その目つきが変わった。
それが不思議だった。
そして、少しだけ面白かった。
「そう」
彼が私の手の上に、自分の手を軽く重ねた。
「わかってきた?」
私は小さくうなずいた。
「少しだけ」
「じゃあ、最後まで集中して」
私はもう一度、彼の表情を見た。
彼が低く息を吐いた。
そして、しばらくして静かに言った。
「もう、いくよ」
その瞬間、私は思わず息を止めた。
彼が私の手を軽く握った。
部屋に、短い静寂が落ちた。
やがて彼は力を抜き、笑いながら言った。
「今日はここまで。最初の授業は合格だよ」
そして、いたずらっぽく付け加えた。
「うがい薬以外はね」
「あれは忘れてください」
「たぶん、一生忘れられないと思うけど」
私は両手で顔を隠した。
彼がまた笑った。
「でも、よく頑張ったよ。初めてなのに、逃げなかったでしょう?」
「逃げたかったですけど」
「知ってる」
「どうしてですか?」
彼は、椅子にかけてあるワンピースを見た。
「ワンピースが、全部教えてくれたから」
私もつられて、ワンピースを見た。
レースの裏地には、まだ汗で濡れた跡が残っていた。
その瞬間、バッグに入れたタイマーのことを思い出した。
「あっ、タイマー!」
彼は、あきれたように笑った。
「まさか、セットしてなかったの?」
「すっかり忘れていました」
「じゃあ、次の授業はタイマーからだね」
「次の授業?」
彼は答える代わりに微笑んだ。
私はもう一度、ワンピースを着た。
ホテルに入ったときと同じように、レースの裏地が肌に触れた。
けれど、同じワンピースなのに、感じ方は違っていた。
あのときは、不安で濡れていた。
今は、そこに不思議な安心感が残っていた。
ドアの前で、私は彼に頭を下げた。
「今日は本当にありがとうございました」
「今日教えたこと、覚えておいてね」
「はい」
「それから、次はそんなに緊張しないこと」
私は少しためらってから答えた。
「はい、先生」
彼が少しだけ眉を上げた。
「先生?」
「だって……本当に、たくさん教えてもらったので」
彼は小さく笑った。
「いいね。またすぐ会おう。二回目の授業もしないとね」
ホテルを出てからも、彼の言葉が頭から離れなかった。
最初から上手にできる人なんていないということ。
相手の反応を見ること。
そして、愛撫にも段階があるということ。
彼はただ、私にとって初めてのお客様だった。
でも、私には「お客様」より、もっと似合う呼び方があった。
彼の名前は、P。
けれど私は、心の中で彼をS先生と呼ぶことにした。
私のS先生。
Secret。
誰にも言えない、私の秘密の仕事を教えてくれた先生。
こうして、私の最初の秘密の授業は終わった。
彼が誰より先に気づいてくれた、濡れたワンピースと一緒に。
正直に言えば、私はあの日のお客様と、もう二度と会うことはないと思っていた。
脱がされた体は、すべすべではなく、汗でべたべた。
うがい薬さえ間違えてしまう、どうしようもない初心者だったから。
でも、二度目の出勤の日。
お店から届いた予約リストに、見間違えるはずのない名前があった。
P。
私のS先生だった。
私の秘密の授業は、あの日で終わったわけではなかった。
二度目の授業が、もうすぐ始まる。
?
***** 第二話 終 *****
今週は日記の更新が遅くなってしまい、
申し訳ありませんでした。
最後まで読んでくださり、
ありがとうございました。
お店情報
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| 店名 | 池袋人妻ヒットパレード |
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| 電話番号 | 03-5949-3494 お問合せは「マニアックス見た」で! |
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