(8)乳首の荒れは、職業病。
シリーズ連載「風俗業界、転がってみました。」
二十代の大半を、東京の風俗業界で過ごした元風俗嬢。ナイトワーカーとしての半生をまとめた人気シリーズ連載。思慮深く、洞察に富んだ性格で風俗嬢ライフをさわやかに駆け抜ける。
❑前回までの話し
第44話「池袋デリヘルE店」お高いホテルへ呼ばれました。
http://www.jukujo-fuzoku-joho.com/column/6505
お金を支払って嬢との時間を買う殿方は、サービスを受けて然るべき立場であるお客様。
常に嬢が責め、お客様には快感のままに愉しんでいただくという構図になるのはごく自然なことですよね。
エッチの上手いお客様、ものすごく苦手。
現役風俗嬢のわたしが苛つきながらも疑問だったのは「責め好きなお客様の存在」でした。
性的サービスを受けるために決して安くはないお金を払って、わたしとふたりきりでホテルの一室にいるはずなのに、何でどうしてそこまでして、イかせようとするの?
感じさせるのが上手なお客様は、とても苦手でした。
本気で感じてしまうぐらいなら、痛みしかないような手マンをガシガシとされ続けた方がまだマシだ、とさえ思うほど苦手です。
お仕事というフィルターを通せば、お客様からの無茶な要求にもそこそこ耐えられます。
器用なセックスワーカーとして生きていくために、わたしの心の中では感情と性欲を切り離すような動きがありました。
少なくともそんな姿勢でいなければ、わたしは風俗嬢でいることすら出来なかったのです。
それなのにお客様の手で本気で感じてしまったなら、本当はそのふたつを切り離せていなかったことに気が付いてしまうじゃないか。
感じることへの罪悪感と、嫌悪感。
わたしにとってセックスをすることや感じることは、その相手に対して自分の本当の顔を見せることに近しいもの。
ひいては心を開くのに近いことであり、わたしは目の前にいるお客様に心を開いてしまうことが本当に嫌だったのです。
もっと平たく申し上げますと「本当のわたしのことを何も知らないこの人になんて、心を開いてたまるか。」という、自分の精神を守るためのプライドでありました。
その向こう側にあるのは、心を開いたらわたしはこの人に興味を抱き、もしかしたら好きになってしまうかも知れない・・・という恐怖。
責め好きを自称される殿方は残念ながら上手とは言えない方がほとんどですが、ごく稀に巧みな指と舌使いでわたしのマンコを責め立ててくるお客様がいらっしゃいました。
そんなお客様に当たった時、わたしは内心で非常に困ってしまうのです。
「感じたくない・・・でも気持ちいい・・・イきたくない・・・でもイきたい・・・。」
今時AVの台本でだってそう使わないよ!という、このような精神状態で悶えるほかございません。
セックスワーカーにとって、感情は邪魔なのです。
お客様に恋をすることは一度もありませんでしたが、性欲と愛情を混同してしまいがちな性格であるわたし。
基本的には楽しみつつお仕事をこなしておりましたが、セックスワーカーとしての生き方は時として過酷なものでもあったのです。
手マンがお上手なうえに顔も好みであったお客様に、思い切って連絡先を聞いてしまおうかと思ったこともありました。
けれど踏みとどまることが出来たのは、風俗嬢であるわたしが一般人から、ひとりの人間として扱われるのはとても難しいのだということを知っていたから。
電話番号を聞くことも、お店の外で会うこともありませんでした。
いっそのこと感情を持たないマネキンにでもなってしまいたい。
これだから、人間の心ってとても面倒で嫌なのです。
文|カサイユウ(ライター・元風俗嬢)
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